夜の木陰のサルパンチ

メンクラ猿の毎日をつづります。

富田

8年くらい前に塾講師をしていた。

当時中3だった学年は3つの中学校から集まった30名ほどのクラスで、

中学ごとで完全に分断されていて、

おそらくお互いのことをよく思ってなかった。

T中は元気な女子が中心な一方で、

M中は硬派な野球部の男子が中心。

K中はそんな中で少人数の女の子たちがひっそりと授業を受けていた。

 

K中女子の一人、木下は私が嫌いだった。

もともとは別なクラスにいてその受持ちの山田先生と親しかったから、

クラスが変わって私が受け持ちになったことが気に入らないらしかった。

 

それとT中女子と私の関係性の問題もあっただろう。

彼女たちが明るいものだから、

どうしても彼女たちと親しいように見えたのだと思う。

 

とにかく木下に嫌われてるのはよくわかった。

 

ある日、木下と同じK中の富田が居残り勉強をしていた。

富田は木下とは仲が良いわけでもないけれど、他に誰もいないから一緒にいることが多かった。

 

富田と世間話をする中で、

なんかの拍子で木下の話になった。

私はそのとき、なんも考えずに富田にもらした。

「木下はおれのこと嫌いだからなぁ」

 

そう言った私に対して、

富田は何かを思ったのだろう。

すかさず質問してきた。

 

富田「嫌いなのわかるん?」

私「そりゃあ、わかるよ」

富田「どういうとこでわかるん?」

私「まぁ態度というか仕草というか」

富田「じゃあさ、私はどうだと思う?」

私「どうって?」

富田「嫌いだったらわかるんでしょ?私はどうだと思う?」

私「え、それは…言わない」

富田「えぇ言ってよ」

 

私は逃げ切った。

なんとか彼女の意地悪な追及をかわした。

でも今ならはっきり言えるけど、

あれはつまり

「私も嫌いなんだけど、あんたちゃんと気づいてないでしょ?」

ってことだったんだろうな。